2012年8月15日水曜日

第一委員会が変わる・変える、5つの「模擬国連」の問題


 こんにちは、会議監督です。本日は、第12回関西大会第一委員会の事前準備に関しての新しい試みについていくつか紹介したいと思います!




図:模擬国連活動のディレク・デリ(参加者)の意思伝達(筆者作成)



 参加者に提示した今回の会合の事前準備は、これまで関西大会やその他日本で実施されている模擬国連活動の事前準備とやや趣旨を異にしたものになっています。まず今回の事前準備の特徴を説明しますと、


・事前交渉(メール交渉)が無い
・文言の事前作成(=当日の持ち込み)の禁止
Working Paperの格下げ(動議を無くす)
Position Paper


の四点に集約されるか、と思います。


 これまで、模擬国連活動の流れとして、会議参加までに、

〈議題のリサーチ〉
 BGと呼ばれる教科書を用いて、議題に対する背景知識を身に着ける
 ↓
〈担当国のリサーチ〉
 各自、参加者は担当国の内情を外務省HPなどで調査する
 ↓
〈政策立案〉
 各国の国益を算定し、国益に沿った政策を立案する
 ↓
〈事前交渉・文言作成〉
 メールを用いて様々な国と交渉し、事前準備や決議案の文言の作成を行う

 といった段階を経ることが一般的でした。


 リサーチの段階では、Q&A形式のTask Paperというものが会議監督から提示され、参加者はその回答を行います。その後、自国の主張をWorking Paperという形で可視化し、当日のスピーチの準備を行い、さらにその後に決議案の文言案を作成する、ということが通例でしょう。


 今回の会議設定はこの流れにいくつかの問題点を感じ取り、その改善を図った、ということになります。

 問題点とは、具体的には

1)    Task Paperに追われる参加者が、Q&A形式に没頭することで、「答え」という正当性を暗黙のうちにセットしてしまう
2)    文言を事前に(大量に!)作成する人がいるために、その文言ありきの議論に陥り、結果として実質的に討議を行える人が数少ない人に限定される
3)    さらに、自分が有利な(既に自分が検討した文言の)討議の方向に持っていこうとするために、議論の仕方を巡る対立が過熱化する
4)    Working Paperを使って自分に有利な討議の方向に向かわせるために、冒頭に過大な時間の消費と、スピーチの形骸化が起きる
5)    「大会」という場であるはずなのに、メール交渉を行ったものが著しく有利になる構造が出来上がっており、参加者の間に不平等が生じている

などを挙げたいと思います。それぞれ細かく対応点を見ていきたいと思います。


1に関してですが、模擬国連で行われる会議はたいてい簡単に「答え」が見つかるものではありません。ところが、最近の模擬国連活動では、議題の本質的な問題を探るというよりも、そのロールプレイに視点の中心が移っており、担当国のスピーチ原稿をそのまま採用し、「とりあえずその国の意見を言った」気になる、という傾向が強いように思われます。私としては、模擬国連活動の意義は、「全く異なる差異ある文化の中で、自分の住む国の視点から離れ、意見を形成しようと試みる上で、多様性ゆえの国際問題の解決の難しさや、その難しさを乗り越えるべく、画一的な国際問題への視点を離れ、相手を理解しようとする意識を生み出す」シナジー効果にあると思っています。

 そのため、担当国の意見をエッセイ式で書き出すPosition Paperを導入しました。この形式の事前準備は、海外の模擬国連活動では一般にみられるものです。Position PaperTask Paperとは異なり、質問が一切ありません。参加者は自分の(担当国の)イイタイコトを探り、その論拠立てを行い、他国に説得する、というプロセスを辿ります。このエッセイは、上手く書くことができれば、後にスピーチの元になったり、文言案の元になったりすることができるので、非常に有益だと考えています。今回のPosition Paper導入に関する考察は、次のBlogの投稿時に行います。


 次に2に関してです。これは、直近の研究会活動や大会などで感じたことを反映しています。事前に文言を作成することで、文言を作成していない人は作成している人に追随的になってしまい、結果として「交渉」と呼べるような雰囲気が会議に存在しないことに繋がっています。また、議論を行った後にそれを反映した決議案を作成するのか、決議案に基づいて議論を行うのか、いわゆる決義と議論の関係に関して、模擬国連活動を行う人の中で見解が分かれているために、深刻な時間のロスを引き起こしています

 この事態を回避するために、近年「条約採択型」の会議の導入が増えました。これは、既に議長案としてまとまった条約案に関して、事前準備の段階で参加者がコメントを行い、当日はこの修正を中心として議論を行う、という方法です。このやり方は、議論に基づいて条約(決議)を作成するという営みにおいて効率的な成果を挙げてはいるのですが、一方で決議案を作成するという模擬国連活動の魅力を削いでいるきらいがあります。今回は、文言を持ち込ませないこと、またグループを作成しなければ決議案を提出できないような状況を設定することで、決議案を作成する段階でグループ内で意見調整が同時に起きる、つまり「議論」「決議作成」の同時並行型進展をもくろんでいます。成否は大会終了時に分かるのではないかな、と思います。


 続いて3に関してです。これは、2に言及したときに「「決議と議論」の関係の議論による時間のロス」が起こっている、ということに由来します。ここではメール交渉の廃止との関連性について述べたいと思います。

 このような時間のロスを、メール交渉をたくさん行うことによって防止しよう、という考え方が模擬国連活動を行う人の念頭にあります。経験者になればなるほど、メール交渉の重要性と言うものを認識し、リサーチを早め文言案を作成し……ということを考えるかと思います。
個人的には、この見解には同意しかねる部分があります。まず、メール交渉の欠点に関してです。メールをタイプするのは、口頭に比べ時間がかかりますし、対話ではなく一方向に宣告することしかできません。また、Non-verbal communicationといった、非言語的な伝達方法を採用できないことで、非効率な情報伝達になってしまっていることが多いです。その結果、「相手を丸め込んでやろう」という思惑と相まって、メール交渉の議論がむしろ当日の議論の妨げになっている事例がみられると思います。それならば、当日前の交渉を廃止し、イイタイコトをしっかり形作る時間を増やしたほうが、当日の参加者の充実度の向上につながるのではないでしょうか。


4に関しては、模擬国連のプロシージャーと呼ばれるルールに起因する問題を指摘します。Working Paperとは日本語にすると「作業文書」なのですが、日本の模擬国連団体(JMUN)ではこれを国連が出す公式文書と定義し、提出するごとに数分間のスピーチを与えることになっています。このため、自分が喋りたいときにこの動議が提出されることがしばしばありました。私としては、Working Paperのこのような実情が模擬国連活動の促進に大きく影響しているとは思えず、今回の会議では、口頭でのPublic Speakingやリーダーシップ・議論を促進させるファシリテーション能力の向上のため、敢えて視覚に訴えかけるWorking Paperは外すことにしました。


最後に、5に関してですが、これは今後の模擬国連の大会に向けた一つの提言となっています。昨年の関西大会のCOP会議(気候変動枠組条約策定会議)には、私の知人の模擬国連未経験者が参加していました。このように、近年模擬国連活動は様々なところで活用されており、大会が模擬国連団体である日本模擬国連(JMUN)の会員だけでなく、全国の学生が応募可能になる母体になる必要性をひしひしと認識しております。その場合、現状の、団体に所属している研究会・支部の「慣習」に基づいたルールや議論の進め方ではなく、できるだけ簡潔かつスピーディーに模擬国連活動にのめり込むことが出来るようなルール策定が求められていると思われます。そうならば、メール交渉を中心とした「大会外」の模擬国連活動は、模擬国連未経験者にとっては非常にハードルの高いものとなり、議論の妨げにもなりかねません。これは、模擬国連加盟団体のみに言えることではなく、近年、参加する模擬国連会員の経験年数が減少しつつある大会としては、緊急に検討を要請されていることであるでしょう。大会の3日間を、すべての参加者にとって実りのあるものにするよう検討した結果、事前準備はできるだけinteractiveなものではない、一人でpreparationするものとなりました。



これらの事前準備の変更は、研究会中心で過ごしてきた私にとっても、他の模擬国連会員にとってもかなり実験的要素の強いものになりそうです。そのため、関西・関東両方で開催された勉強会や、参加者に配布したpreparation guide、独自のRule of procedureなどを通じて、なるべく会議監督の意図が伝わるように今回の企画を立案しています。

成功するか失敗するか、これはなかなか分かりにくいものではありますが、出来る限り「狙った目的」と「経過状況」、「成果」、参加者の「感想」、「レビュー」などをこのBlogを通じて皆様にお届けできれば、と考えています。


数日後になりますが、大会前に

・「Position Paper」の結果について
・議長との対談――会議を動かすとは?

の以上のコンテンツを当Blogで配信する予定です。



この実験的な模擬国連の試みに関して、ご意見・ご感想があれば、当Blogのコメント欄より記載お願い申し上げます。

長く拙い文書ではありましたが、これにて会議監督より久々の更新とさせていただきます。

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